wizard

ログ置き場

MEMO LOG

No.231

供養。いつか書くかもしれません……。

「ミスラことが好き」そんな簡単な言葉を言えないままでいる。好かれているとは思う。でも、ミスラの好きは俺と同じじゃない。それを思い知る度、胸が軋んだ。

誰かを好きになるって、もっとやわらかくて、あたたかいものなんだと思ってた。こんなに苦しいなら、気づきたくなかった。ミスラから気持ちを返してもらえることは、きっと無い。俺は千年も生きられないから、ミスラに好意を示すことさえ出来ない。

実際「好き」の一言も伝えられていない。本当は、俺がミスラのことを好きだって知ってもらいたい。でも、知られたくないとも思う。今の、この関係を壊したくない……伝えない理由を探しては言い聞かせる。伝えたって、きっとミスラは何事もなかったかの様にいつもと変わらずに過ごしていく。それが一番虚しくて、悲しい。

ミスラにとって、俺の気持ちなんて取るに足らないものだと言われてるようで。想像でしかないのに、こんなにも苦しい。

千年生きる事が出来たなら、伝えられたんだろうか。俺は、きっと……――

えっ!?一緒に寝る???と慌てていたのが懐かしく思えるほど、添い寝フレンドとして晶は毎日、ミスラと眠るようになった。困ったことがある。それは、ミスラのことを恋愛対象として好きになってしまったのかもしれない、ということだ。いつからこの気持ちを抱き始めたのか、晶自身にも解らなかった。いつのまにか、隣に居るだけで心臓が早鐘を打つようになった。手を握ったら、鼓動が聞えてしまうんじゃないかと思うほどだ。体が熱を持ち、汗がじわりと晶の肌を湿らせる。ミスラの手がいつもより冷たく感じられた。

「あなた、熱でもあるんです?」
「いっ、いえ、熱は無いです……。ただちょっと暑いなあって……あはは」
「ふうん」
鼓動は聞こえていなくても、体温は伝わっていたようだ。冷たかったミスラの手が、もう晶と同じ温度に変わっている。ミスラはきっと、何も気にしてなんかいないのに。一緒に寝るのだって、賢者の力が必要だから。それだけに過ぎない。眠ることが出来るなら、賢者でなくてもいい。そんな解りきった答えを繰り返して、晶は自分を落ち着かせた。チクリとした胸の痛みを横目に見ながら。
「……どうですか?眠れそうですか?」
「まあ、いい感じですよ。その調子で俺を眠らせて下さいよね」
「頑張りますね」
晶は余計なことを考えるのを止め、ミスラを眠らせることに集中した。そのおかげもあってか、今日はいつもより早く寝息が聞こえ始めた。
「おやすみなさい、ミスラ」
晶は繋いだ手を軽く握りしめながら、ミスラの寝顔をまじまじと見つめた。本当に整った顔をしている。ずっと見ていられるかもしれない。ミスラの顔へ不意に手を伸ばし、起こさないように輪郭をゆっくりと軽くなぞった。それだけで心音がドクドクと鳴り響き、体全体が熱を持つ。

唇に触れるか触れないかのところで、ミスラがピクリと反応した。それと同時に晶は我に返った。すぐに手を引っ込め、近づけていた顔をばっと離す。触れたい、と思ってしまった。ミスラの唇に触れたら、どんな感じなのか知りたい。キスしたい。その衝動が抑えられなかった。
(勝手に、なんて……最低だ……)
罪悪感と、自分の中にある邪な気持ちがごちゃ混ぜになり、視界がぼやけた。何やってるんだろう、自分は。何も伝えてないのに、答えを聞く勇気すらないのに。晶は繋いでいた手を離しミスラに背を向け、壁に張り付くようにして寝ようとした。だから、気づかなかった。常磐色の双眼が、晶をじっと見つめていたことを。

壁と向き合ったまま、どれくらいの時間がたっただろう。晶はまだ眠れていなかった。体の熱はひくそぶりもなく、先程のミスラの顔が頭から離れない。背後にミスラの気配を感じるだけで、今夜はもう眠れる気がしなかった。
だめだって、最低だって解ってるのに、キスしてみたくて堪らない。自分がこんなに欲深かったのだと、晶はこの時初めて知った。

どうせ寝れないのなら、せめてミスラの居ないところで落ち着こう。散歩にでも行こうかと壁から振り返った瞬間、閉じているはずのミスラ目が晶を捕らえた。
「あっ……ミ……スラ。いつから起きてたんですか……?言ってくれれば、良かったのに」
晶からどっと汗が噴き出した。もしかして、あの時起きたんじゃないか。どうしよう。
いつから?ぐるぐると考えを巡らせていると
「あなたが俺の顔に顔を近づけてきた時ですね。せっかく眠れたと思ったのに」
やっぱり、そうだった。晶の頭は真っ白になった。
(どうしよう……でっ、でも……キス、しようとしたとは思ってないかもしれないし)
「……えっと、すみません……。ミスラの寝顔が、綺麗……だったから、近くで、見たくて……」
目を、合わせることが出来ない。視線が宙を彷徨った。
「ふうん……てっきり俺とキスしたいのかなって思ったんですけど」
「…………」
どっっ。言葉が出ない。正解を言われた。何て答えたらいいのか、晶には解らなかった。ミスラの鋭い視線が突き刺さって、胸が痛い。
「っ……あの、ええっと、ですね………っ!?」
ミスラの両手が晶の顔を掴んで固定し、口内をむさぼるようにキスをした。
「んっ……んん……っ」
息が、出来ない。ミスラの長い舌が、晶の口の中を這いまわる。
(どうしよう……きもちいい……)
「したかったんでしょう?」
口の端の涎をペロリと舐めとりながらミスラは晶に聞いた。

晶はまた、何も答える事が出来なかった。……したかった。してみたかった。ミスラの舌の感触がまだ残っているし、気持ち良かった。でも、それだけだった。それどころか、余計虚しくて、苦しさを感じていた。気持ちがないキスは、こんなにも虚しいのだと、知りたくなかったのに知ってしまった。

ミスラにとってのキスはどういう意味を持つのだろう。怖くて聞くことができなかった。なんの意味もありませんよ、なんて、ミスラの口から聞きたくなかったからだ。
畳む


文字本当に難しい……

ミス晶

フリースペース:

当ページは株式会社coly『”魔法使いの約束 ”』の画像を利用しております。 該当画像の転載・配布等は禁止しております。©coly

Powered by てがろぐ Ver 4.6.0.